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▼ 咎落ち編1

吸血鬼事件のあと、クロウリーを連れてリナリーとブックマンを追うことになった。旅立つ際に、クロウリー男爵、と話しかけると、イノセンスを発動していない状態でクロウリーでいいである、と少し恥ずかしげに言う彼と握手をすると、どうすればいいかわからないといった反応をとられた。きっと、これまでエリアーデやお祖父さん以外の人とまともに関わったことがないからだろう。出立の際に村人たちに心のない言葉をかけられ、落ち込むクロウリーを元気づけようと3人で必死に励ますが、効果は感じられず、汽車の中でも泣き続けるばかりだった。あんな乱暴な手段を用いてまで助けを乞うてきたわたしたちにさえも化物共、と言ってくるくらいだ。きっと彼らにとって、敵味方関係なく、自分たちと少しでも違うものは総じて悪になるのだ。気晴らしに初めて乗ったという汽車の中を見てくることを進めると、ちょっと嬉しそうに立ち上がって出掛けていった。それを笑顔で見送るが、発動時との温度さがすごすぎて風邪を引きそうである。

「クロちゃんやーい」

席を立ってから3時間経過しても戻らないクロウリーが心配になってアレンくんとラビと3人で汽車の中でクロウリーを捜索する。どんなにじっくり見て回ったとしても汽車の中の見学で3時間はかからない。何か事件に巻き込まれていないだろうか。汽車の接続部の扉をアレンくんが開けると、ん?という男性の声が聞こえた。

「悪いね。ここは今青少年立ち入り禁止だよ」

アレンくんとラビの後ろにいるため、中の様子がわからないが、ふたりがぽかんとして動こうとしないため、きっと何かがあったのだろう。とりあえず接続部は寒いから中に入れてくれないだろうか。目の前のラビの背中を押して、ねえ、もうちょっと進んで、と言うも、アレンくんになまえはきちゃだめです!と止められる。何があったのかはわからないけれど、年下のアレンくんに名指しで止められるものって一体。もう一度強くラビの背中を押して中を覗き込み、真顔になる。その中では、なぜかパンツ一丁のクロウリーがあまり品のよくない男性たちに囲まれて泣いていた。彼らにポーカーに誘われ、気づいたらこんなことになっていた、と言うクロウリーに頭が痛くなる。クロウリーは男爵というだけあって衣服や荷物も高級だし、気品もある。その上世間知らずである。ひとりで行かせたのが悪かったとは思うけど、どうしたものか。うーん、と考えていると、アレンくんがおもむろに団服のコートを脱いで、それを賭けて男性たちにポーカーを挑んだ。これ3対1だから誰がやっても不利になるのではないかと思ったが、アレンくんが余裕そうである。ラビとクロウリーとアレンくんの勝負を見守ることになったが、見ているだけで寒そうなクロウリーに自分の団服のコートを脱いでかけてあげる。体格がちがうのであまり効果はないかもしれないけど視覚的にもないよりはマシだろう。ラビのコートを貸せば一番いいと思うけど、あいにくそこまで気が利く男ではないらしい。わたしの行動に、やべ、という顔をしたラビを無視して、アレンくんを見ると、なんとびっくり。圧勝している。あんまり運がいいイメージはなかったので余計に驚いてしまう。ロイヤルストレートフラッシュとか、どうやったら出せるのだろうか。みるみる内に身ぐるみを剥がされていく彼らをよそに、イカサマしてますもん、と平気な顔で言うアレンくんは、これまでよほど修羅場をくぐってきたらしい。クロス元帥の弟子にだけは、本当に、死んでもなりたくないと思ってしまった。いや死にたくないんだけど。

「はい」

クロウリーの服と荷物を取り返し、男性たちの身ぐるみを剥いだアレンくんは、彼らが下車するキリレンコ鉱山前で、剥いだ荷物一式を汽車の窓から差し出す。

「仲間の物が取り返せたからもういいですよ。この季節に裸は辛いでしょ?」

「少年…情けをかけられるほどオレらは落魄れちゃいねェよ」

ビン底メガネにくるくるパーマの男性は、その言葉と裏腹に差し出された荷物を受け取った。手癖の悪い孤児の流れものと名乗った彼らは、これから鉱山で外働きらしい。裸で外働きとか、想像するだけで死んでしまいそうだった。彼らの連れの男の子が、アレンくんにおれい、と言って何かを差し出す。それを受け取る前に、ビン底メガネの男性がポケットからトランプを取り出し、アレンくんに投げ渡す。ねえ、待って。

「それでカンベンしてちょー」

さっき一瞬、あの男の子の手に、見覚えのある銀細工があるように見えた。まじまじと見たわけじゃないし、裏面に彫られているはずの名前を確認したわけでもない。銀でもない、ただの飾りだと言われても確かめる術もない。なんの確証もないのに、誰かに言うことなんてできない。というよりも、絶対にありえないのだ。あの子が持っていた宝物が、エクソシストの団服のコートの、銀でできたボタンだなんて。彼らの降りた駅を遠く過ぎ去っていく汽車の中で、バクバクと酷い音を立てる胸を押さえつける。

「どうしたんですか?具合でも悪くなっちゃいました?」

隣に立っていたアレンくんが心配そうにわたしを見た。言うべきじゃない。きっと勘違いだから。わたしは、自分の直感が訴えかけるものを全て無視しして、なんでもないよ、とアレンくんにへたくそな笑顔を作ってみせた。その選択を、後悔することになるなんて知らずに。アレンくんも、それ以上追及してくることはなかった。

* * *

「なまえ!無事でよかった!」

「リナリーこそ!大丈夫だった?」

ようやくリナリーとブックマン、ティムキャンピーと合流することができた。これから中国大陸に入っていくのだ。逃亡を阻止するためにも、クロス元帥に会うのなら全員揃ってがいいに決まっている。吸血鬼を怖がっていたリナリーも、仲間だとわかったからか笑顔でクロウリーと握手を交わしていた。きっとリナリーのような若くてかわいい女の子にこんな風に最初から受け入れてもらったのは初めてなのだろう。感極まった様子のクロウリーに、わたしもつい笑ってしまった。

「リナリー、なにかあった?」

「え?」

「なんか、顔色が悪い気がする」

リナリーの頬に手を当てて顔を近づけると、やはり目の下にはくまができている。自己管理を徹底しているリナリーにしては珍しい。別行動していた間、やはりリナリーとブックマンの方も過酷な道のりだったのだろうか。わたしは大して役に立たないけれど、アレンくんとラビとクロウリーは立派な戦力だし、リナリーも少しは休めるようになるだろうか。しっかりしているとは言っても、彼女は年下の女の子なのだ。無理しちゃダメだよ。くまができている目の下をそっと撫でると、リナリーがくすぐったそうに身をよじった。

「女の子同士でやーらしいさー」

顔を覗きこんでいるため、普通よりも顔の距離が近いとはいえ、にやにやしながらからかってくるラビに眉間に皺を寄せる。リナリーに何かあったかもしれないのに、よくそんなことを。リナリーも怒った様子でわたしから離れ、腰に手を当ててラビを叱った。

「もうラビ!なまえは心配してくれてるだけよ!」

「そういうことばっかり言うからなまえに嫌われるんですよ、ラビ」

「え!?オレ嫌われてんの!?」

好き嫌いというか苦手であることは間違いないので返答に困って黙ると、マジで!?とラビが騒がしくなるだけだった。この面子の中では圧倒的に関わりたくない。クロウリーは何かとかわいいし、心配になることもあるけれど、彼はわたしにマイナスの感情を向けてこないから、ほっとする。ブックマンはよくも悪くも無関心なので、距離を置いて接してくれる。アレンくんとリナリーは、わたしなんかを大切にしてくれる。ラビは、わたしのことが嫌いなくせに興味本意で近づこうとしてくる。ブックマンがやかましい、とラビを蹴っ飛ばすのをぼんやり眺めていると、リナリーがぎゅ、とわたしの手を握った。

「私は大丈夫よ、なまえ」

ちょっと気を張ってて疲れちゃったの。いつものように笑ったリナリーに、なんとなく腑に落ちないまま、わかった、と返す。本当は、ちゃんと聞いてあげたい。でも、聞いたからと言ってわたしに何ができるのだろうか。わたしとリナリーでは、大切にしているものが違うというのに。彼女が疲れてると言っても、わたしが代わってあげられる訳でもないし代わってあげようという気さえ、起きない。こんなの、偽善でしかない。形だけの心配だ。それでもリナリーはありがとうと笑うから。せめて、リナリーが笑っていられるようにと願った。その気持ちだけは、本当だから。

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